法人成りをした際の資産引継ぎの注意点

法人成りをするにあたり、個人事業主として使っていた設備や在庫をどのように法人に移管させればよいか?

これは多くの人が悩むポイントです。

法人に移管させるとなると、個人から法人へ売却することが一般的ですが、「個人」と「法人」はもちろん別人格となりますので、それぞれで売買取引として会計・税務処理をする必要があります。

今回は、ご質問の多い「棚卸資産(在庫)」「設備(減価償却資産)」「債権(売掛金)」を個人から法人へ売却したときの注意点を紹介していきます。

 

法人成りを考える際には「資産引継ぎ」の他にも、さまざまなことを考えて実行していかなかればなりません。

何らかの不備や書類ミスなどがあると、その後の経営に大きく響いてしまうこともあります。

そのため、法人成りについて少しでも不安がある場合は専門家に相談することをおすすめします。

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1. 棚卸資産(在庫)の引継ぎ

会計や税務では、商品や製品等の在庫のことを棚卸資産といいます。個人事業主として保有していた在庫は、法人に販売価格で譲渡しなければなりません。

すなわち、個人から法人へ売却することとなります。

個人側 法人側
売上計上(事業所得) 仕入計上

 

(1) 個人側の取扱い

個人側での売上を低くしたいという理由から、著しく低い金額で販売した場合には、「通常の販売価格×70%」で販売したものとみなされてしまいます。

裏を返せば、「通常の販売価格×70%」程度の金額までであれば値下げは認められるということです。

なお、季節外れの商品等に関しては、通常のお客様へ販売する時にも「販売価格×70%」より低い価格まで値下げして販売することはよくありますが、個人から法人への販売もこれと同様の処理は認められています。

(2) 法人側の取扱い

法人側の棚卸資産の仕入価格は時価であるべきとする原則的なルールがありますが、この時価とは通常の販売価格を意味します。

従って、個人側で売上を低くしたいという理由から著しく低い金額で取得した場合には、時価とその低い金額との差額は受贈益として法人側で収益に計上する必要があります。

一方で、個人側に多く現金を渡したいという理由から時価よりも高い金額で取得した場合には、時価とその高い金額との差額は個人への寄附金となります。

なお、個人では通常の販売価格×70%程度の金額までであれば値下げは認められていることから、法人側の仕入れ価格は、個人側と同様に通常の販売 ×70%程度であれば、特に問題はないと言えます。

 

2. 設備等の固定資産(減価償却資産)の引き継ぎ

個人事業主のときに使用していた固定資産は、法人に時価で譲渡しなければなりません。

個人側 法人側
売上計上(事業所得) 固定資産計上

 

(1) 個人側の取扱い

固定資産の譲渡も棚卸資産の譲渡と同じように、個人から著しく低い金額で販売することを認めないルールがありますが、著しく低い金額を計算するための割合(%)が異なり、固定資産の場合は通常の販売価格×50%で販売したものとみなされてしまいます。

(2) 法人側の取扱い

個人で使用していた固定資産を法人が取得する場合、法人は個人から「中古資産」を購入することとなります。

法人側での固定資産の取得価額は「時価」となりますが、中古資産の時価を算出するのは難しいです。

中古車のように、中古車販売サイトでおおよその販売価格がわかる場合は良いですが、特殊な機械等となると、一般的な中古品価格の算定が難しいのが現状です。

個人側での売却時点での帳簿価額を参考に取得価額を決定するなど、様々な実務上の対応がありますので、ここは是非とも税理士に確認をした方がいいポイントと言えます。

 

なお、個人から取得した固定資産は中古資産になるため、新品の耐用年数と異なり短い期間で償却(費用化)することができます。

 

3. 一括償却資産や少額の減価資産の引き継ぎ

固定資産のうち、「一括償却資産(※1)」や「少額の減価資産(※2)」を譲渡した場合の個人側の取り扱いは通常の固定資産とは一部異なります。

個人側 法人側
・一括償却資産:売上計上(原則、事業所得)
・少額の減価償却資産:売上計上(原則、譲渡所得)
固定資産計上(取得価額によっては費用処理)

 

(※1)一括償却資産
取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産(国外リース資産やリース資産、少額な減価償却資産を除きます。)については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部又は特定の一部をひとまとめ(一括)とし、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができるものです。

(※2)少額の減価償却資産
(1) 使用可能期間が1年未満のもの
(2) 取得価額が10万円未満のもの

(1) 個人側の取扱い

通常の固定資産の譲渡は「譲渡所得」ですが、「一括償却資産」や「少額の減価資産」を譲渡した場合は「事業所得」に該当します。

なお、これらの資産のうち、少額重要資産は「譲渡所得」に該当します。

この少額重要資産とは、製品の製造、農産物の生産、商品の販売、役務の提供等その個人事業主の目的とするビジネスを行う上で直接必要な減価償却資産で当該ビジネスを行う上で欠くことのできないものをいいます。

しかし、少額重要資産のうち、ビジネスを行う上で反復継続して譲渡することが当該ビジネスの性質上通常である貸衣装業における衣装類や、パチンコ店におけるパチンコ器のような少額重要資産の譲渡は、「事業所得」に該当します。

一括償却資産は個人側では3年間に分けて必要経費に算入するため、3年間の途中に売却等を行ったとしても必要経費への算入は3年間継続します。売却益の計算では、譲渡原価は0と考えるため、売却金額の全額が売却益となり事業所得または譲渡所得として申告する必要があります。

(2) 法人側の取扱い

法人側では、通常の固定資産と同様に時価で取得価額を算定する必要があります。

ただし、そもそも金額が少額である資産が対象となっており、かつ、中古資産であることからも、「使うことはできるけど、そこまで金額的価値のある資産ではない」ことが多いと考えられます。

この点は様々な実務的対応も考えられますので、詳細は税理士に確認することをお勧めします。

 

4. 債権(売掛金)の引継ぎ

売掛金等の債権については、そのまま引き継ぐこととなります。

例えば売掛金が100万円残っていた場合、個人で回収した場合は回収後の100万円を現金で法人に引き継ぐことになり、もし法人成りした後に回収した場合は、売掛金として法人に引き継いで、その入金額を法人の現金とすればよいので、結果は同じとなります。

なお、法人へ引き継ぐ場合は個人から法人へ債権を譲渡することになるので、債務者の同意を得る必要があるなど手続きが煩雑になるので、債権の引継ぎはせず、個人側で回収を済ませてしまうのが無難と言えるでしょう。

 

おわりに

今回は売買をする場合の資産引継ぎについて紹介してきましたが、法人成りをすることで生じる法人への資産の移管方法は他にも現物出資や賃貸借等の選択肢もあります。

また、法人成りは資産引継ぎのみならず、法人成りをする時期や資本金の設定等、様々考えなければならない事項があります。

法人成りで最も大切なことは「迷ったらまず専門家に相談する」ことです。

スペラビ税理士法人では積極的に法人成りのサポートを行っておりますので、少しでも気になることがあれば、お問合せフォームよりお気軽にご連絡下さい。

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