本来の確定申告期限を過ぎて申告をすると、ペナルティの1つとして最大30%の税率の「無申告加算税」が課税されます。
最大30%の税率で課税されるためとても負担が重いですが、一定の場合にはこの無申告加算税が免除されることがあります。
今回は、無申告加算税の概要や課税が免除されるケースを計算例も用いて紹介します。
1.無申告加算税とは
無申告加算税とは、基本的には以下の2つの要件に該当する場合に課されるペナルティです。
- 期限後申告書の提出、または、税務署からの調査によって税額を確定される処分があった場合
- 上記の期限後申告書の提出、または、税務署からの調査によって税額を確定される処分により納付すべきこととなる税額がある場合
つまり、無申告加算税は、期限後に申告した場合や無申告期間を対象に税務調査が入った場合で、かつ、納付すべき税額があるときに課税されるのです。
この定義から、まず一つ目の「無申告加算税の課税が免除されるケース」が分かります。
それは、期限後申告等をしたとしても赤字で納税額がないケースです。この場合、無申告加算税は課されません。
なお、納税額がある場合の無申告加算税の税率は以下の表のとおり、状況によって適用される税率が0%~30%で変わります。
課税要件(状況) | 適用税率 |
過去5年内に無申告加算税又は重加算税を課されたことがある場合で、以下に該当するケース
・税務調査終了後に期限後申告をした場合 ・税務署からの調査によって税額を確定される処分があった場合 |
25%(50万円以下の部分) |
30%(50万円超の部分) | |
・税務調査終了後に期限後申告をした場合
・税務署からの調査によって税額を確定される処分があった場合 |
15%(50万円以下の部分) |
20%(50万円超の部分) | |
税務調査の通知を受けた後に自発的に期限後申告をした場合(調査通知は受けただが、調査が実施される前) | 10% |
自発的に期限後申告をした場合(税務調査の通知を受ける前) | 5% |
・法定納期限から1月以内申告した一定の場合
・正当な理由がある場合 |
0%(課税されない) |
「無申告期間を対象にした税務調査の流れとは?注意点も解説!」でも記載の通り、無申告の場合でも、税務署から通知が来る前に自発的に期限後申告を行うことで無申告加算税の適用税率を5%まで軽減することができます。
さらに、一定の条件下では、納税額がある場合でも無申告加算税が課税されない(0%)ケースがあります。その条件については次の章以降で紹介します。
なお、上表中の「[50万円以下の部分]・[50万円超の部分]」とは、無申告加算税の計算の基となる”本来納めるべき税金”の金額を意味しています。
【参考】
無申告期間の法人税(本来納めるべき税金)が160万円だった場合の無申告加算税の計算例
・50万円以下の部分:50万円×15%=75,000
・50万円超の部分 :(160万円 – 50万円)×20%=220,000
無申告加算税の合計=295,000円
※今回の紹介は法人税や所得税などの国税を前提に記載していますが、地方税にも同様の制度があります。
2.期限内申告をする意思があった場合
二つ目の「無申告加算税の課税が免除されるケース」が納税者が期限内申告をする意思があった場合です。
この場合、税務署は救済措置として期限後に申告したとしても無申告加算税は課税しないこととしています。
ただし、「期限内申告をする意思があった場合」に該当するためには、次の要件をすべて満たす必要があります。
- その期限後申告が、法定申告期限から1月以内に自主的に行われていること。
- その期限後申告に係る納付すべき税額の全額を法定納期限までに納付していること。
- その期限後申告書を提出した日の前日から5年前までの間に、無申告加算税又は重加算税を課されたことがなく、かつ、期限内申告をする意思があったと認められる場合の無申告加算税の不適用を受けていないこと。
この要件のポイントは「納税自体は納期限までに行う」ことです。
申告書作成は細かい体裁を整えることや、添付書類の作成など、申告書等一式を完成させて税務署への提出まで時間がかかりますが、納税行為自体は税金計算が完了次第、実施することができます。
そのため、もし申告書の提出が申告期限に間に合わない見込の場合は、まずは納税のみ完了させて、申告期限から1月以内に申告できるように進めると、無申告加算税の課税を免れることができます。
3.期限内に申告できなかった理由が正当と認められる場合
三つ目の「無申告加算税の課税が免除されるケース」は、正当な理由があると認められる場合です。
しかしながら、実のところ、期限内に申告できなかった正当な理由の具体例というのは公表されていません。訴訟事例はいくつかありますが、裁判所は、全て個別案件ごとに実態判断しています。正直、税務署(揉めた場合には裁判所)に「正当な理由」と認定されるためのハードルは高いといえます。
それでも、税務署が「正当な理由」と認める判断軸の基礎は推察できます。それは、「不可抗力」、即ち、災害や伝染病、事故・病気などで申告ができなかった場合です。
最近では、コロナ禍により、営業の停止や社員の在宅勤務など様々な要因によって申告期限までに申告することができないことへの配慮として、申告期限の延長が一律に認められるということがありました。特定の法人・個人を対象にした措置ではありませんが、こうした税務署の対応は、不可抗力に対して一定の配慮をすることの現れといえます。
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【参考】
少し古いですが、「正当な理由」について、昭和26年当時の所得税基本通達(昭26.1.1直所1―1「518」)では、次のような場合を指すとされていました。
現在の法律等には明記されていませんが、この通達は今でも参考にされていると言われています。
(1) 交通,通信のと絶により期限内に申告することができなかつた場合
(2) 通常であれば期限内に到達すべき期間前に発送したと認められるにかかわらず,通信機関の事故により期限内に到達しなかつた場合
(3) 納税義務者が,申告時に重患その他の事由により意識又は身体の自由を失っていたため申告書を作成できず,かつ,他人をしてもこれを作成提出せしめることができない特別の事情があつた場合
(4) その他期限内に申告書を提出しなかつたことについて,(1)から(3)までに準ずる宥恕すべき特別の事情があつた場合
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繰り返しになりますが、現在の法律等に「正当な理由」は明記されていないため、「正当な理由」に必ず該当する事例、というのは示すことができません。
従って、どんな理由があっても、期限後申告をすることにはリスクがある点には留意が必要です。
4.無申告加算税が5,000円未満だった場合
四つ目の「無申告加算税の課税が免除されるケース」は、無申告加算税が5,000円未満の場合です。
無申告加算税などのペナルティは、一定金額以下(の少額)であれば課税されないルールになっています。
加算税や延滞税など種類によってルールは異なりますが、無申告加算税の場合を表にまとめると以下の通りです。
要件 | 無申告加算税の有無 |
本来納めるべき税金が1万円未満 | なし |
本来納めるべき税金が1万円以上、かつ、無申告加算税が5,000円未満 | なし |
本来納めるべき税金が1万円以上、かつ、無申告加算税が5,000円以上 | 課税される |
また、無申告加算税を計算する際の端数処理には以下の決まりがあります。
- 本来納めるべき税金が1万円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てて計算
- 無申告加算税に100円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てる
具体的な計算例で見ていきましょう。
【前提】
本来納めるべき税金:35,000円
無申告加算税の税率:15%
【計算】
①まず、本来納めるべき税金に1万円未満の端数があるため切り捨てます。
35,000 → 30,000
②端数切捨て後の金額に無申告加算税の税率を乗じます。
30,000 × 15% = 4,500
③最後に5,000円以上かどうかを判定します。
4,500円<5,000円 → 無申告加算税の課税なし
国税通則法第118条 国税の課税標準の端数計算等
3 附帯税の額を計算する場合において,その計算の基礎となる税額に10,000円未満の端数があるとき,又はその税額の全額が10,000円未満であるときは,その端数金額又はその全額を切り捨てる。
国税通則法第119条 国税の確定金額の端数計算等
4 附帯税の確定金額に100円未満の端数があるとき,又はその全額が1,000円未満(加算税に係るものについては,5,000円未満)であるときは,その端数金額又はその全額を切り捨てる。
おわりに
無申告加算税はペナルティの中でも税率が高いため、課税されると資金繰りへ大きなインパクトを与えます。
今回は概要や適用税率などを計算例も用いて紹介しましたが、無申告加算税が課税されないためには期限内に申告と納税をすることが重要となります。
しかし、日々の領収書の取り纏め等を決算まで放置してしまったり、申告書の作成方法が分からなかったり、期限内に申告しようとしても“出来ない”ケースもあるでしょう。
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