法人成りの手続でかかる費用には、大きく分けて「法定費用」と「手続費用」の2つがあります。
「法定費用」は登録免許税や定款認証手数料等の法人成りの手続を行うにあたり必ずかかる費用をいい、「手続費用」は必ずかかるものではないが、ご自身の状況に応じてかかる費用となります。
法人成りをするにあたり「コストはできるだけ抑えたい」という人が抑えることができる費用は「手続費用」ですが、この手続費用(専門家への費用)を抑えすぎることで、将来思いもよらぬ問題が生じてしまうことがあります。
ここでは、法人成りにおいてどのような手続費用がかかるのか、どんな場合に専門家に依頼した方がいいのか、などについて紹介します。
目次
1. 法人成りでかかる費用の一覧
前述の通り、法人成りでかかる費用には、「法定費用」と「手続費用」があります。
このほか、印鑑を作成したり、印鑑証明書や登記簿謄本を取得したりすればそうした費用も発生します。が、このような雑費的なものを除けば、基本的にはこの2つに区分されると考えてよいでしょう。以下で、具体的にその内容を見ていきます。
(1) 法定費用:絶対にかかる費用
株式会社 | 合同会社 | |
定款認証手数料 | 50,000円 | 0円 |
定款謄本手数料 | 2,000円程度 | 0円 |
定款収入印紙代 | 0円(電子定款でない場合は40,0000円) | |
登録免許税 | 150,000円 or 資本金×0.7%(大きい方) | 60,000円 or 出資金×0.7%(大きい方) |
株式会社にするか合同会社にするかで費用は異なりますが、これらはどのように手続をした場合でも不可避にかかる費用です。
法定費用の目安は、株式会社の場合で最低約20万円、合同会社の場合で最低約6万円です。このほか、資本金(出資金)を高額にしていくと、資本金(出資金)の額に応じた登録免許税が追加で発生していきます。
なお、定款収入印紙代については、電子定款の要件を満たせば0円となります。司法書士に手続を依頼する場合や、自ら会社設立Freee・会社設立ひとりでできるもん等のWebシステムを利用する場合等は、通常0円となります。
(2) 手続費用:どのように手続きを進めるかで異なる費用
株式会社 | 合同会社 | |
司法書士報酬 | 70,000円~100,000円 | 60,000円~90,000円 |
税理士報酬 | 0円~50,000円 | |
システム利用料 | 5,000円~10,000円 |
手続費用は、
- 専門家に依頼せず自分で手続を完結させる場合:システム利用料のみ
- 司法書士に手続代行を依頼する場合:司法書士報酬のみ
- 手続きは自分で行い、税理士にアドバイスをもらう場合:システム利用料+税理士報酬
といった具合に、どのように手続きをするかで異なります。
専門家にも依頼せず、またはWebシステムも利用せず完全に自前で手続を進めるケースはほとんどないと思います。自らWebシステムを利用したとしても、最低5,000円~10,000円程度の手続費用は発生するものだと考えておいて良いでしょう。
2. 法人成りの手続きの流れ
手続費用は誰に何を依頼するかによって異なりますので、まずは手続きの流れをざっくりと理解する必要があります。
手続 | 税理士に依頼した場合 | 司法書士に依頼した場合 |
(1) 必要事項の決定 | 税務相談時 (または初月顧問料発生時) |
法務相談時 |
(2) 定款の作成・認証 | – | 作成・手続代行時 |
(3) 登記申請書類の作成・提出 | – |
(1) 必要事項の決定
法人成り(会社設立)をするにあたっては、会社名、本店所在地、事業目的、資本金、決算期など、必ず決めなければいけない事項があります。これらは基本的にはご自身で決めなければなりません。
必要事項を決めるにあたり、
- 節税効果を最大限得るために資本金をいくらにするべきか?
- 消費税の免税事業者メリットを最大限得るためには決算期はいつにするべきか?
- 2人で会社設立をするが、株主間の権利関係をどのように設定すればいいか?
などの悩みが出てきますが、そこで登場する専門家が税理士や司法書士となります。
税金にまつわる相談の場合は税理士に、法務的な相談は司法書士に相談をすることとなり、それぞれ0円(※)~100,000円程度の相談料が発生します。
(※)顧問契約を締結することで、設立時の税務アドバイス等が無料になる場合がございます
(2) 定款の作成・認証
決定した必要事項を「定款」という会社のルールブックに落とし込みます。
「定款」は会社法に基づき作成する必要があります。法律の専門家を除き、一からご自身で作成することは難しいですので、基本的には「①Webシステムを利用して自分で作成する」か「②司法書士に委託する」かの2つが選択肢として挙げられます。
①Webシステムを利用して自分で作成する場合
「会社設立Freee」や「会社設立ひとりでできるもん」などを利用すれば、5,000円~10,000円程度の利用料を支払うことで、自分で定款~登記申請書類を作成することが可能です。
事前に決めた必要事項をWebシステムに入力していくだけで定款や登記申請書類が作成できるので、コストを抑えたい方にお勧めです。
なお、インターネットでダウンロードできる無料のひな型を使って自前で定款作成しても良いですが、電子定款でない場合には4万円の収入印紙代がかかります。また、正しく作成されていない定款は、認証されないリスクもありますので、ご自身で作成する場合には、一旦「会社設立Freee」や「会社設立ひとりでできるもん」などのWebサービスを利用することをお奨めします。
ひな型通りの定款としたくない場合でも、一旦、認証はひな型に近い内容で行い、その後に定款変更の株主総会手続をとって内容を変更することも一案です。
②司法書士に委託する
必要事項が決まった後の手続きを全て司法書士に委託することも可能です。
コストはかかってしまいますが、書類の作成~手続代行まで全て委託することができるので、簡単にかつ安心して手続きを進めることができます。
後述の通り、平日の日中に時間が取れない方も、司法書士に委託することで自ら公証人役場に行かずに済みます。
(3) 登記申請書類の作成・提出
定款の作成が完了したら、法務局での登記手続(登記申請書類の法務局への提出)をする必要があります。
これも、定款と同様に「①Webシステムを利用して自分で作成する」か「②司法書士に委託する」の2つが選択肢として挙げられます。
登記申請書類を作成し、法務局への提出が完了した後、特に不備等がなければ1~2週間で法人成り(=会社設立)は完了します。
手続方法 | 手続費用 |
① 自分で行う | システム利用料:5,000円~10,000円程度(前述の通り) |
② 司法書士に手続代行を依頼 | 手続代行料:60,000円~100,000円程度 |
+α 専門家に相談した場合 | 税理士・司法書士相談料:0円~50,000円程度 |
3. 法人成りの手続きに必要な書類
ざっくりとした流れを紹介してきましたが、ここからは具体的にどのような書類が必要になるかを紹介していきます。
大きく分けて「法人成り」と「個人事業の廃業」の2つの手続きが必要となるので、それぞれ確認していきましょう。
(1) 法人成りの手続きにおける必要書類
定款
まずは会社名(商号)、本店所在地、会社の目的等を記載した定款を作成する必要があります。
先ほど紹介したWebシステムを用いて作成する場合や、司法書士に依頼する場合は、記載内容さえ決まっていればあとはシステムや専門家が作ってくれます。
登記申請書類
定款の作成ができたら、法務局に提出する登記申請書類を準備する必要があります。
「登記申請書」「発起人の決定書」「設立時取締役の就任承諾書」「資本金があったことを証する書面」など、10種類程度の書類を用意する必要がありますが、
これを一からご自身で準備するのは至難の業ですし、不備があれば再提出対応もしなければなりません。
Webシステムや司法書士等の専門家に依頼することをお勧めします。
税務署・都道府県税事務所等への届出
登記申請が完了(=会社設立が完了)したら、まずは税務署や都道府県税事務所等へ、以下の書類等を提出する必要があります。
- 設立届
- 青色申告承認申請書
- 給与支払事務所等の開設届
- 申告期限の延長の特例の申請書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 など
税務署への届出については、提出期限を過ぎてしまうと、税務上の恩恵が受けられなくなってしまったりと、特に注意したいところです。
不安な方は税理士に依頼することをお勧めします。
年金事務所への届出
会社を設立した場合、年金事務所等へ社会保険関係の手続きをする必要がありますが、具体的には以下の書類が必要です。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届 など
また、法人成りをしてすぐに従業員を雇用される方は、併せて労働保険関係の手続きも必要となります。
社会保険や労働保険の専門家は社会保険労務士となりますので、もし提出書類でお悩みの方は、社会保険労務士に相談しましょう。
(2) 個人事業廃業の手続きにおける必要書類
法人成りの場合、設立した法人だけではなく、廃業する個人でも手続きが必要となります。
個人事業を廃業した時の手続きは以下で紹介していますので、詳しくは以下をご覧ください。
4. 法人成りをした際の資産引継ぎについて
法人成りをした場合、個人事業時代に使っていた在庫や設備をどのように処理すればいいか悩まれる方が多くいます。
結論としては「個人から法人へ売却をする」こととなりますが、対象となる資産ごとに様々な注意点があります。
法人成りをした際の資産引継ぎの注意点については以下の記事で紹介していますので、詳しくは以下をご覧ください。
5. できるだけ手続費用を抑えたい方は自分で手続を行う
自ら登記を行うことは手間(デメリット)でもありますが、最も設立コストを抑えることができる方法でもあります。ここでも、「会社設立Freee」や「会社設立ひとりでできるもん」等のWebサービスを利用することで自ら登記手続を行うことが可能です。
どのWebサービスも、手順に従って情報さえ入力すれば提出すべき書類は作成できます。あとはご自身で法務局に提出すれば登記手続は完了となります。
6. こんな方は専門家に依頼した方がいい
一方で、次のような方は、多少コストがかかっても、後々の問題を回避したり、法人成り手続の遅延によりビジネススタートが遅れたりすることを避けるためにも、手続きを司法書士に依頼したり、必要事項の決定を税理士や司法書士に相談したりするなど、専門家のサポートを検討した方が良いでしょう。
(1) 平日の日中になかなか時間が取れない方
株式会社の場合は公証人役場(定款認証)と法務局(登記申請書類提出)に、合同会社の場合は法務局(登記申請書類提出)に、それぞれ書類の提出が必要です。また、定款認証では、平日の日中に公証人役場へ連絡してアポイントを取得し、定款を直接持参する必要があります。
法務局書類は郵送が可能ですが、提出書類に不備等があれば再提出を求められるため、現実的には直接出向いた方が手続が早く済むケースが多いです。
半面、司法書士に依頼すれば、「必要事項」さえ決めてしまえば手続を完了させてくれます。
仕事や育児の都合で平日の日中に時間が取れないという方や、ビジネスの都合上できるだけ早く法人成りをしたいという方は、司法書士に手続代行を依頼することも一案です。
(2) とにかく安心して法人成り手続を完了したい方
会社設立したものの、後々問題が起きてしまうことが多々あります。
- 資本金を低くしすぎて銀行口座がなかなか開設できない
- 決算期の設定を誤り、消費税の免税期間を最大限とれなかった
- 定款の事業目的に不足があり、認可が下りなかった
- 共同経営のため株式を半々にしたが、後々もめてしまい会社の活動が停滞してしまった
- 利益の分配をあらかじめ定めていなかったため、利益分配で共同経営者ともめてしまった
これらの問題は解決するのに時間や追加コストがかかります。「最初から専門家に依頼しておけばよかった」なんてことも良く耳にする話です。
巷には多くの有用な情報が溢れていますが、結局は「自分の場合はどうなのか」を考えなければなりませんので、巷にあふれる情報を鵜呑みにして、自分の都合のいいように解釈してしまうのは危険です。
安心して法人成り手続をしたいという方は、最初から税理士や司法書士に相談した方が良いでしょう。
(3) 法人成りをしたら税理士に顧問契約をお願いすると決めている方
税理士との顧問契約を念頭に置かれている方は、法人成りのサポートから税理士に相談することをお勧めします。
顧問契約が前提の場合、法人成りサポートを無償で行ってくれる税理士が多くいますので、安心して法人成り手続を進めることができます。
将来的に不必要な税金は払いたくないという方は、最初の決めごとが肝心です。
おわりに
今回は法人成りの手続きで発生する手続費用について紹介してきました。
法人成りにおいて手続費用は可能な限り抑えたいと考える人が多いですが、最初の決めごとは肝心です。
初期コストを削りすぎたがために、後々大きな問題を抱えることもあります。
自らの場合はどのように法人成りをすることがベストなのか、専門家に相談することも一案です。
スペラビ税理士法人では、法人成り手続のサポートをさせていただくプランも設けております。是非ともお問合せ下さい。