法人成りをしたら個人所得税の申告は不要と考えている方、いらっしゃいませんか?
少なくとも、法人成りをしたその年度は個人事業主の所得税確定申告が必要です。
個人事業主として確定申告が必要にも関わらず確定申告をしていないと様々なペナルティが科せられてしまう可能性があるので、特に「法人成り初年度」は注意したいところです。
今回は、個人事業主が法人成りをした年度の確定申告が必要なケースと、確定申告時の注意点を解説します。
法人成りをした年度は確定申告が必要
(1) いつからいつまでの所得を申告する?(対象期間)
個人事業主は所得税の確定申告が必要になりますが、所得税は暦年(1月1日から12月31日まで)単位の所得を基に税金を計算します。
そのため、年度の途中で法人成りをした場合、1月1日から個人事業を廃業した日までの所得を基に税金を計算し申告する必要があります。
例えば、4月1日から法人成り(=3月31日で個人事業は廃業)をした場合、すなわち年度の途中で法人成りをした場合は、
- 1月1日~3月31日:個人事業主としての確定申告
- 4月1日~:法人としての確定申告
が必要となります。
なお、個人事業主が消費税を納める義務がある場合(課税事業者)は、所得税と同様に、1月1日から個人事業を廃業した日までの消費税を計算して申告する必要があります。
個人事業主の最終年度に係る確定申告を忘れて無申告となっているケースは意外と多く見受けられますので、注意しましょう。
(2) 申告・納税時期
個人事業主は、年度の途中で法人成りをしたとしても、通常通り、所得税と消費税を以下の期限までに申告及び納税する必要があります。
税目 | 申告期限 | 納付期限 |
所得税 | その年の翌年3月15日まで | |
消費税 | その年の翌年3月15日まで |
法人成りをしたからといって、その年度から個人事業の申告が不要となるわけではないので、申告・納税義務があるにも関わらずこれらの期限を過ぎてしまった場合は延滞税や加算税等のペナルティが発生してしまうので注意が必要です。
また、設立する法人の事業年度(決算期)によっては、個人事業の確定申告と法人の決算とを同時期に行わなければならないこともあります。過度に事務負担が増大してしまわないためには、繁忙期を避けたり、消費税の免税事業者の期間を最大にとったりと、設立する法人の決算期を慎重に設定する必要があります。
注意点①:資産の引継ぎ
法人成りをする場合、個人事業で使用していた「資産」を引き継ぐ必要があります。例えば、以下のような資産が引き継ぎ対象となります。
- 棚卸資産(在庫)
- 固定資産(パソコンなどの設備)
- 債権(売掛金など)
「個人」と「法人」は別人格となりますので、法人に引き継ぐ場合、一般的には「個人」から「法人」へ売却することとなり、それぞれで売買取引として会計・税務処理をする必要があります。
個人から法人への売却となると、資産ごとに「いくらで売却しなければならないか」を検討しなければなりません。
法人への資産引継ぎに関する詳細は以下で紹介していますが、個人側でも売買に係る事業所得や譲渡所得が発生する場合もありますので、慎重に検討したいところです。
注意点②:個人事業主の借入金
個人事業主として金融機関等から借入金は、法人成りをするときはどのように処理をすればいいか?
これは法人成りをする際に質問が多い項目の一つでもあります。
- そもそも会社へ引き継がない(個人が返済のみしていくケース)
- 個人事業主時代の借入は個人で返済し、新たな借入金は会社が銀行から借りる(個人が返済しながら、法人で新たに借入を行うケース)
- 債務引受(個人事業の借入を法人が引き継ぐケース)
主にこれらの方法により個人事業主としての借入金を処理する必要がありますが、いずれの方法にしても融資を受けている金融機関との調整は必要になります。
法人成りをする際の個人事業主としての借入金の取扱いについては、以下の記事で解説していますのでこちらを参考にしてみて下さい。
注意点③:事業税の見込控除
個人事業税とは、地方税法で定められた法定業種に対してかかる税金となり、約70の業種が対象となっているので、ほとんどすべての事業が該当すると言えます。
毎年3月15日までに所得税の確定申告をしている場合は、税務署から各自治体に確定申告書の情報が共有され、その確定申告書を基に各自治体側で事業税額を計算してくれますので、別途事業税の申告書を提出する必要がない場合がほとんどです。
対象 | 約70の業種(ほとんどすべての業種) |
申告 | 所得税の確定申告をしている場合は不要(自治体側で事業税額を計算) |
納税時期 | 8月、11月の年2回 |
事業税は、納付したタイミングで個人事業の必要経費に算入されることとなりますが、廃業をした年度は「事業税の見込控除」を適用することで、納付していなくても、廃業する年度の必要経費に算入することができます。
(事業を廃止した年分の所得につき課税される事業税の見込控除)
37-7 事業税を課税される事業を営む者が当該事業を廃止した場合における当該廃止した年分の所得につき課税される事業税については、37-6にかかわらず、当該事業税の課税見込額を当該年分の当該事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができるものとする。この場合において、当該事業税の課税見込額は、次の算式により計算した金額とする。
(A±B)R/1+R
A・・・事業税の課税見込額を控除する前の当該年分の当該事業に係る所得の金額
B・・・事業税の課税標準の計算上Aの金額に加算し又は減算する金額
R・・・事業税の税率
(注) 事業を廃止した年分の所得につき課税される事業税について上記の取扱いによらない場合には、当該事業税の賦課決定があった時において、法第63条《事業を廃止した場合の必要経費の特例》及び第152条《各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例》の規定の適用がある。
事業税の見込控除は「適用しなければならない」規定ではないため、利用するかしないかは納税者の任意ですが、利用した方が得です。
実際の計算は若干複雑ですので税理士に確認した方が良いでしょう。
おわりに
これまで見てきたとおり、法人成りをしたからといって、すぐに個人所得税の申告が不要になるわけではありません。
また、法人成りをした年度の個人所得税の申告に関しては、今回紹介した注意点がありますので、税理士と協力の上、申告漏れを防ぎながら不必要な納税が発生しない対策を採るべきです。
スペラビ税理士法人は、法人成りをした後のサポートはもちろん、法人成りにより発生する個人所得税の申告もサポートしています。
法人成りの手続きや確定申告はご自身でも行うことは可能ですが、法人成りで最も大切なことは「迷ったらまず専門家に相談する」ことです。
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